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High Tech & Low Life

アイダカズキの(主に小説用)ブログです

幕間・獣の肌

――隣室からはベッドの激しくきしむ音と、低く唸る獣にも似た男女の営みの声が漏れ聞こえてくる。全身を黒の装いで統一した男は顔色を変えることなく、ソファに腰かけて待ち続けた。 やがて隣室とのドアが開き、下着姿の女が転げ出てきた。泣き腫らした目のま…

犯罪工学の少女【2】狩る者たち

「アカデメイア・コムリンク企画6課の藤松室長ですね? 少々お時間をいただけますか?」 「そうだが、何だね君は?」車に乗り込もうとしていたところを振り向いた男は、リムレスの眼鏡越しに望月崇へ胡乱そうな目を向けた。「君は雑誌記者か? 取材だったら…

幕間・新しい街で生きるということ

そもそもお前は、とハンドルを握りながら崇は口を開いた。「どうしてこの街に来たんだ?その何某さんとやらの死の原因がここにあると、どうやって突き止めた?」 「17年前からの逆算」それだけ言うのに、少し時間がかかった。「沖縄で戦術核を用いたテロが発…

犯罪工学の少女【1】半島から来た男

「来ないな......」 「ぼやくな。アポを取ってるわけじゃねえ」 室内に火の気はなく、床に敷いた毛布と懐の使い捨てカイロ以外身を温める術はない。 暖房も照明もない薄暗い部屋に二人が陣取ってから数時間。カーペットすらないフローリングの床は想像以上に…

犯罪工学の少女【プロローグ】朗読劇

夢の中で、私は5歳に戻っている。目隠しをされ、口に布を噛まされ、両手両足を椅子に固定された5歳の少女に。身をよじったが、手の縛めはびくともしない。不思議と恐怖は感じなかった――ただ頭の片隅で、おしっこに行きたくなった時困るな、とは思う。人を…

黒の日輪【エピローグ】光に満ちた、暗黒の世界

シャワーから迸る湯が肌の上を滴り落ちていく。その感触に溜まりに溜まった疲労が流れていくような気分になっていた彼女は、肩のあたりに覚えた鈍痛に思わず顔をしかめた。無理もない――見下ろすと、まるで腐った果実のような赤黒い大痣が生じている。あの男―…

黒の日輪【9】Into The Darkness

――あなたが相良龍一君ですね。私は高塔百合子です。お母様からあなたのことを頼まれました。 それが彼女の第一声だったが、幼い龍一は不遜にも「この人、嘘が下手だな」という感想を抱いた。本当に彼女が母の知人なら、龍一の父の話に出てこないはずがなかっ…

黒の日輪【8】月光

男はハンドルを握りながら、後部座席でタオルを目に当てて横たわっている少年の様子をバックミラーでうかがった。傷ついた獣のように時々身じろぎするだけでほとんど動かない。結構、そのままでいてくれよ、と内心呟く。暴れ出さないだけでも上出来だ。 「………

黒の日輪【6】包囲網

「おい兄ちゃん、俺にもこいつと同じのを一人前くれや」給仕の青年に愛想よく声をかけてから、男は勝手に目の前へ座った。睨みつける視線に気づくと、わざとらしく掌を振ってみせる。「怖い顔すんなよ。それとも何か、前菜代わりに俺をかじろうってか?」 失…

黒の日輪【5】追跡と尋問

「こんなことをしてただで済むと思っているのか?」 四肢を縛られた不自由な姿で、イゴール・ザトヴォルスキーは必死に身をよじっていた。デスクライトの光が顔面に向けられ、目をまともに開けていられない。「お前がどこの誰だろうと、この礼は必ずするぞ………

黒の日輪【4】接触

この部屋にいると、重々しい柱時計の音がまるで祖父の鼓動のようだ、と彼女は思う。とうの昔にこの世を去った祖父の心臓の鼓動に。では私は、今もまだ祖父の胎内にいるということになるのだろうか。 指先で艶やかな黒檀のデスクを軽く撫でる。これだけではな…

黒の日輪【3】犯罪の犬ども

地主が夜逃げして土地ごと放棄された貸しコンテナが数十平方メートルに渡って居並ぶ湾岸エリア。雨ざらしのコンテナ群から住民たちの生活臭が否応なしに漂う。コンテナ間のロープに渡された生乾きの洗濯物、羽毛をむしられた鶏を煮込む土鍋、キムチと豆板醤…

黒の日輪【2】冥府にて

埃にぶ厚く覆われて停止したエスカレーターを、パンプスの規則正しい靴音がゆっくりと登っていく。周囲を照らす光は割れた天井から差し込む光と、足元を照らす懐中電灯のみ。 かつて大勢の利用客で賑わっていたはずの華やかなショッピングモールは暗闇に閉ざ…

黒の日輪【1】行きずりの暴力

趙安国は今日の取引に満足していた。製造番号を削り落した業務用大型3Dプリンタと引き替えに入手した大量の軍用爆薬。何よりも素晴らしいのは、それで吹き飛ばされるのが同胞でない限り――いや、同胞であろうと趙の懐が一切痛むことはない、ということだ。…

幕間・死よ、分け隔てなく在れ

指先から、息絶える直前の痙攣が伝わってきた。 痙攣が完全に止まるまで待ち、慎重に指を動かした。肉の中に深々と埋まっていたとはまるで感じさせない容易さで「針」が耳孔から引き抜かれる。先端に小粒の宝石を思わせる血の滴が一滴膨れ上がっていたが、慎…

貫通、抽出、災厄

赤煉瓦敷の歩道が左右に並ぶ大通りは早くもクリスマスソングを流し始め、街を行き交う人々も既に冬の装いだった。街頭のプロジェクタはどれも今のうちにクリスマスの準備をしないとひどいことになりますよというCMを流していた。何をどれだけ準備してもひど…

誰にでもできる、簡単な荒事

エレベーターのドアが開き、相良龍一と望月崇は『ハイパーポリア沙河』38階のペントハウスに通じる通路へ降り立った。招待客を出迎えるつもりだったのだろう、一礼しようとしていた警備員2人が怪訝な顔になった。無理もない――龍一と崇は全身をオレンジ色の…